神経を取らない歯科治療
歯の「命」の灯を消さないために
「虫歯が深いので、神経を取っておきますね」
もし、あなたが歯科医院で何気なくこう言われたとしたら、少しだけ待ってください。
その一言は、あなたの歯が「生きるか、死ぬか」の宣告と同じ重みを持っています。
神経を取った歯は、もはや生きた組織ではなく、枯れ木と同じ道を辿ります。
なぜ私が「神経を残すこと」に執念を燃やすのか。そして、どうすれば歯の神経を守れるのか。詳しくお話しします。
神経を失った歯に起こる「3つの悪影響」
神経のない歯(失活歯)の状態を想像してみてください。
それは、大地から水分や栄養を吸い上げることができなくなった「枯れ木」そのものです。
① 「美しさ」が失われる
歯の変色
枯れ木の葉が茶色く、カサカサに乾いていくように、神経のない歯は徐々にその輝きを失い、どす黒く、あるいは茶色く変色していきます。
これは、歯の内部に栄養を運ぶ血流が途絶え、組織が壊死していくために起こる現象です。
どんなに表面を磨いても、内側からの「死」を隠すことはできません。
② 「強度」が失われる
破折の恐怖
青々と茂る生きた木は、強い風が吹いてもしなり、折れにくい強さを持っています。
しかし、水分を失った枯れ木は、わずかな衝撃でポキリと枝が折れてしまいます。
歯も同じです。
神経(歯髄)は、歯に弾力と栄養を与えています。
それを失った歯は非常にもろくなり、食事の際の何気ない衝撃で割れたり、折れたりしやすくなります。
現在、日本人が歯を失う原因のトップは「折れる・割れる(歯根破折)」ですが、そのほとんどが神経のない歯なのです。
③ 「抵抗力」が失われる
根尖病巣と感染
枯れ木は害虫に弱く、根元から腐りやすいものです。
神経という「免疫システム」を失った歯は、細菌に対する抵抗力がゼロになります。
根の先に膿が溜まる(根尖病巣)、激しい痛みや腫れを繰り返すといったトラブルが頻発し、一度病気になれば治癒させるのは至難の業となります。
なぜ、歯科医師はすぐに神経を抜きたがるのか?
現代の歯科業界では、神経のない歯を「リスクの高い、先のないもの」と見なし、無理に残すよりも「いっそ抜いて、インプラントにしたほうが確実で儲かる」と判断する歯科医師が増えているように感じます。
抜髄(神経を取ること)は「歯科医師の都合」であることが多い
痛みを止める最も簡単な方法だから
神経を取ってしまえば、その瞬間に痛みは消えます。
患者様からのクレームを防ぐには、これが「手っ取り早い」解決策になります。
治療後のトラブルを回避するため
神経を残す治療は、術後に「しみる」「痛む」といった一時的な症状が出やすく、歯科医師にとっては説明や対応に手間がかかります。
被せ物を作りやすくするため
神経がないほうが歯を大きく削ることができ、被せ物の形を自由にコントロールしやすくなります。
しかし、これはあくまで「作る側」の論理です。
患者様の「一生、自分の歯でいたい」という願いを叶えるための論理ではありません。
「神経を残す」ために当院が行うこと
当院では、他院で「神経を抜かなければならない」と言われた症例でも、あらゆる手段を講じてその命を救い出します。
精密な「診断」による見極め
前述した「デンタルレントゲン」や「歯科用CT」を駆使し、虫歯が神経にどこまで迫っているのか、神経の炎症はどの程度なのかを精密に分析します。
「とりあえず抜く」のではなく、「この状態なら、この技術を使えば残せる」という確信を持って治療に臨みます。
薬剤と技術の融合;3mix法とMI
削る範囲を最小限に抑えるMI(ミニマルインターベンション)に加え、3mix法(3種混合抗菌剤)などを用いることで、本来なら削り取らなければならない神経に近い虫歯菌を「薬剤で殺菌」し、神経を守り切ります。
また、コンポジットレジン(CR)による精密な封鎖により、二次感染を徹底的に防ぎます。
「時間」をかけた丁寧な処置
神経を残す治療は、急いではいけません。
慎重に、優しく、歯の状態を対話するように処置を進める必要があります。
当院が1日10人限定という診療スタイルを貫いているのは、こうした「神経の生死」を分けるような繊細な治療に、十分な時間と集中力を注ぐためです。
抜かない、削らない、そして「神経を取らない」
「抜かない治療」「削らない治療」という言葉はよく聞かれます。
しかし、その根底にあるべき最も重要なキーワードこそが、この「神経を取らない治療」です。
神経があるかないかで、その後の20年、30年の歯の生存率は劇的に変わります。
神経がある歯
自己修復能力があり、異常があれば「痛み」で知らせてくれる。
神経がない歯
痛みに気づかず虫歯が進行し、ある日突然、根元から折れる。
どちらが、豊かな人生を支えてくれる歯かは、明白です。
あなたの歯の「命」を諦めないでください
もし、あなたが「神経を抜く」という選択を迫られているなら、どうか最後に一度だけ、私たちの診察を受けてみてください。
「枯れ木」にしてしまうのは、いつだって可能です。
しかし、一度枯れてしまった木を、再び青々とさせることは現代医学でも不可能なのです。
私たちは、あなたの歯が持つ「生きようとする力」を信じています。
1本の歯の神経を守ることは、その歯を一生守ることであり、あなたの人生の「噛む喜び」を守ることでもあります。
歯の神経は、あなたの身体の大切な一部です。
そのかけがえのない宝物を、私たちと一緒に守り抜きましょう。
症例のご紹介
34歳女性 左下7・8 放置された大きな虫歯
こんな大きな虫歯を見れば咬めば痛みもあるし、しみるし、神経をとらなければならないと歯科医師に言われても「仕方ない」と思ってしまいますね。
レーザー・3Mixなど神経を保存するためにあらゆる手段を使います。
虫歯の穴に向かって手前に大きく倒れてしまった親知らずは矯正治療で起こしている。
親知らずは抜歯を前提に神経をとったが、現在も異常なく保存している。
左下7はセラミックインレーで修復したが、これだけ大きな虫歯も現在まで問題なく経過している。